本日、相続税申告のご依頼を頂いたお客様の財産の中に横浜市に所在する敷地面積の広大(以下「広大な土地」という)なマンションがありました。
頭に浮かんだのは、去年の税制改正において創設された財産評価基本通達20-2【地積規模の大きな宅地の評価】のことです。
この新通達の適用により、マンションの敷地の相続税が改正以前より実質減税となる可能性があるのです。
その理由を知るには、以下「広大な土地」に係る評価方法の改正の理解が必要です。
基本的に「広大な土地」の時価は、「標準的な大きさの土地」に比べて低下します。
何故でしょうか?
たとえば、120㎡のくらいの標準的な土地は、それを丸々利用できますが、ある程度以上の地積の「広大な土地」の場合、これを買い取るのは一般的に開発業者ですが、開発分譲する上で、様々なコストがかかり、さらに都市計画法等の行政機関から指導により、土地の区画形質の変更の際に公園・道路等の公共公益的施設の提供が必要となり潰れ地が生じるケースが多いからです。
ですから、「広大な土地」については過去から、評価額を減額する通達がありました。
旧通達
今回の改正以前は財産評価基本通達24-4【広大地の評価】であり、その適用要件は次のようなものでした。
【広大地の評価】適用要件
- 標準的な地積よりも著しく広大な地積であること(単に地積が大きいだけでは要件を満たさず、その地域における標準的な宅地の地積に比べて広大である必要がある)
- 都市計画法における開発行為を行うとした場合に公共公益的施設の負担が生じるもの
- マンション適地でないこと
- 大規模工場用地でないこと
実務上、この適用要件の判定はかなり困難なものでした。
たとえば、2の「都市計画法における開発行為を行うとした場合に公共公益的施設の負担が生じるかどうか」の判定は、未だ行われていない開発行為の予想に基づくため、税理士だけでは判断出来ず、不動産鑑定士等の専門家に開発想定図の作成及び想定した開発分譲の経済的合理性及び都市計画等の法令順守に関する意見書等が必要であり、さらにこれを申告書に添付しても、税務署側の不動産鑑定士と開発道路か路地状道路かで、公共公益的施設の負担の是非を争う事例が多くみられました。
さらに、3の「マンション適地でないこと」の判定には、その地域の過去一定期間の開発状況が戸建てか、又は中高層の集合住宅が多いのか住宅地図等を利用して調査が必要でした。
また、既に有効活用されている土地の場合は、今後もそのまま利用することが見込まれ、その建物の収益力や築年数等を考慮して現状が最有効使用とみなされれば適用対象外となっておりました。
旧通達(24-4)が見直されることとなったのは、上で述べたような広大地評価の適用要件が不明確であったことだけでなく、さらに以下のような問題が顕在化したからだと思われます。
改正理由
- 面積に応じて比例的に減額する評価方法であるため、整形の土地であっても不整形の土地であっても評価額が同じになってしまう
- 減額割合が大きく、現実の取引時価と比べかなり低廉となることが多く、富裕層の節税対策に利用され、租税の公平性を害する
新通達
改正以後は財産評価基本通達20-2【地積規模の大きな宅地の評価】となり、その適用要件は次のようなものです。
【地積規模の大きな宅地の評価】の評価適用要件
- 三大都市圏は500㎡以上の土地であること、それ以外の地域においては1000㎡以上の地積であること
- 普通商業・併用住宅地区及び普通住宅地区に所在する土地であること
- 以下に所在する土地は除外する
・市街化調整区域(ただし、都市計画法第34条第10号又は11号の規定に基づき、宅地分譲に係る開発行為を行うことができる区域を除く)
・都市計画法第8条第1項第1号に規定する工業専用地域
・東京都の特別区において300%以上の容積率の地域、それ以外の地域においては400%以上の容積率の地域
旧通達のような、適用要件に関する個別具体的判断が不要となり、スッキリしました。
また、以前は併用出来なかった財産評価基本通達15から旧20-5、旧24-6までが併用適用可能となったため、地積だけでなく、評価対象地の形状を加味した評価がなされることとなりました(※今回の改正に伴い、普通商業・併用住宅地区及び普通住宅地区の奥行価格補正率も改められています)。
すでにマンション等が建設され有効利用されている土地や公共公益的施設の負担が生じない土地も、容積率の及び地区要件をクリアすれば地積規模の大きな宅地として減額評価が可能となったのです。
つまり、旧通達では適用できなかった「既にマンション等が建設され有効利用されている土地」にも減額評価ができることなったことが、マンションの敷地の相続税が改正以前より実質減税となる理由なのです。早速、本日のお客様のマンションの敷地の容積率をチェック致しましたが、600%でした・・・残念・・・。
他方、改正後は、「規模格差是正率」を乗じ計算することになったため、評価の減額割合が大幅に減少しており、改正前と比べて土地の評価がどうなるかはその土地の形状により異なることになりそうです。
たとえば、財産評価基本通達15から旧20-5、旧24-6が適用可能な不整形な土地は減額項目が増えますし、その適用のない土地は評価額増が予想されます。